2020年02月29日

その男の正体は(3)

前回よりはお待たせせずにすんで何よりでした。
『彼方へと送る一筋の光』第22回です。

以前からずっと話していた「どうしてこうなった!」の回です。

であると同時に、以前からずっと予告していた『その男の正体は』の第3回目。
真打ち登場です。

今回の言い訳は、かなり、相当長くなりますので、お時間のある方はゆるりとお付き合いいただければと思います。







さて『その男の正体』ですが、1回目のセプタード、2回目のルイスリールと来まして真打ち登場。

そうです、主人公であるブレイリーです。

今回の話は当初突如としてぶちまけるつもりでしたが、さすがにそれはあんまりなのと、この流れではブレイリーが自分で自分の可能性に気づける気がしない、というので挿入したのが、前回21回のアデライデとの下りです。
あれがあったので、ブレイリーの出自に何かがある、と皆さん薄々気づかれていたのではと思います。

ただ皆さん思われたのではないかと。
これ設定変更だろ。以前はこんなこと考えてなかっただろ。
ブレイリーが貴族なら別にそんなに身分違いじゃないじゃん、だったら何をためらってたんだよ。
そのご意見、本当にごもっとも。

去年の5/30まで、私もあいつが貴族だったなんて知らなかった

なぜこういう顛末になったのか、というぐだぐだ話を少ししたいと思います。

私は小説のネタを考える時、自分で「こういう風にしよう」と作為的に展開を自分で決めることは、あまりありません。
「決める」「選ぶ」というより、「浮かんでしまう」ことがほとんどです。
それがなぜかというと、「お前がそう思っているのなら、この後お前はどうするの?」「これが起こったなら、この後どういう展開に発展するのが自然?」「お前はこう行動したけど、その時お前は何考えていたの?」「お前はこう言ってたけど、その意図は何?」などと、状況やキャラたちにひたすら疑問を投げかけて、自分が納得がいく答えが出るまで考える。
そういう風にしてネタをこねていくんです。
そうして昨年5月。セプタードに視点を移して考え直してみたら、怒濤の如くネタを落としていくネタ神様が降臨しました。
そりゃあもう怒濤の如く色々な真相を落として言ったんですが、その中で私、長年の疑問を問うたんです。
『それでも朝日は昇る』本編を書いた時からずっと感じていたんですが、もうこれ以上この世界の話を書くことはないだろうからと、敢えて追求しないでいた疑問を。

カティスに字と馬を教えたの、誰? と。

今回の更新でリフランヌが持ちだしてきた疑問です。

『それでも朝日は昇る』本編で、何度かクローズアップされるのが教育の問題。
貧しい者は食べていくだけで精一杯で、満足な教育が受けられない。
だから給金の高い職が得られず、貧困から抜け出せない、と。

でもカティスは字が読めるし馬にも乗れるんです。
あれほどどん底の困窮に喘いだ、と言った男がです。
本編ではスルーしましたが、実はこれ、本当はおかしい。

これ、本編書いた当時も私、悩みました。
端的に言えば、話の都合です。カティスは読み書きできて馬に乗れないと、その後の展開が物凄く不自由になる(その極みがサンブレスト)
だから迷った挙げ句、何の説明もせずそういう設定にし、それがどうしてなのかは敢えて追求しませんでした。
当時は内心で「字はアンナ・リヴィアが教えただろう、馬はまあセプタードの父親が教えたことにしておこう」と思っていました。
兄弟同然のカティスとセプタードは、それぞれの親から互いに教育を受けて育ったんだろう、と思うことにしました。
(あまり触れていませんでしたが、セプタードも字が読めます。でなければカイルはセプタードの元にレシピを紙で残してはいかない)

でも、なんです。
本編を書いた時おざなりにしたことが、ここに至って浮上してきました。
そうブレイリーです。
これを端的に言います。


あんた、何者なんだ。


どう考えても、お前、ただものじゃない。
アンナ・リヴィアやランスロットが教えられるレベルじゃない。

ブレイリー・ザクセングルス。
この男を作者の視点で表現すると「本シリーズにおいて、最も成り上がった登場人物」となります。
正直に言います。ブレイリーは実は最初はモブだったんです。
レーゲンスベルグ傭兵団は当初、カティスを取り巻く何人かの傭兵仲間、という立ち位置でしかありませんでした。
第8章レーゲンスベルグ独立の下りって、実は当初からの予定にはなかったんです。多分3、4章書いているあたりでは想定してなかった。本編は執筆に2年半かかっているので、書き始めた頃の最初のプロットにはなかったところが色々ある。
だからそれまでは、セプタード以外は「カティスの気のいい仲間たち」でしかなかったし、名前のある脇役の一人でしかなかったんです。
(だから実は転載の際に、フロリックとの料理勝負の下り、ブレイリーの喧嘩のあたりを書き直そうかと思ったんだけど、うまくいかなくてそのままにしました。正直あのシーン、予定変更前のだから浮いてるんだよなあ……)
が、アイラシェールがエルフルトに頼んでレーゲンスベルグでカティスを探し始めるあたりで、状況が変わってしまいます。
あれ、作者の私にとっては大変都合の悪い展開でした。できればないことにしたい。
でもどう考えたって、アイラシェールがやらんはずがないんですよ。
スルーできん、ならどうする。結果が「カティスとカイルが気づかないうちに、誰かが排除した」になる。
そういう人が小さい頃から近くにいたことになる。
それをできるのはセプタードしかいないけど、あいつはカティスが従軍する時、そばにいない設定だ。だとしたら――で白羽の矢が立っちゃったのがブレイリー。
ここで奴、セプタードと秘密と罪を共有する盟友に成り上がりました。
そしてそれで終わるはずだったんです。

『彼方から届く一筋の光』を書くまでは。

あの話が当初まったく想定していなかったものであることは、当時この日記に書きました。
ブレイリーは一命を取り留めたものの、その後セプタードとレーゲンスベルグで残りの人生を送ったと、作者の私は思っていました。
ロスマリンがと赤の禁書が本編執筆時にすでに想定されていたことは以前書きましたし、それを利用して未来へ干渉することもまあ想定内でしたが、それ以外は完全に「まさか」でした。

ロスマリン、そうか、お前ブレイリーと結婚するのか……。

オフェリアがああいう形でしか救済できなかったことは、お判りいただけていると思うんですけど。
それを叶えるためのレーゲンスベルグとザクセングルスは、実のところ相当力技です。
フォローのためもう一本、中編を書かねばと思うくらいの無茶振りでした。
それでも当時の私は、1200年代のザクセングルスって凄い家だよな、そういう家にまで育て上げたロスマリンは凄い女だったんだな、などと暢気に考えていました。
ええ、七年前までは。

七年たって、ようやく気づいた。
本当に凄いのはロスマリンじゃなくて、ブレイリーの方!
一番大変なのは、ロスマリンと結婚する前!
ここら辺の話は、セプタードの視点であらためてゆっくりと記すことにはなるんですけど、ブレイリーの凄いところは傭兵団による都市防衛を円滑に回すシステムを構築したこと。
本人はただの事務屋と言うけれど、目の前に積まれた仕事をこなしただけと言うけれど、それをこなしたことがまず凄い。
組織運営力が半端じゃない。
(というか、よほど事務屋が優秀でないと組織って立ちゆかない。それがこの7年で身にしみた)

ちょっと待てお前何者。
お前本当に貧民なの。

ブレイリーは傭兵団で字が書けるのは自分だけで、自分が契約やら渉外やらをやるしかなかったと言っていた。
(ブレイリーが帰ってくるまで、どうしてセプタードが傭兵団を預かっていたのか。それは奴が一門の長兄弟子であるという心理的なものもありますが、一番の理由は奴しか読み書きができなかったからです。とりあえず暫定の契約を結ぶにしても、書面を確認したり交わしたりということがセプタードにしかできなかったから。だからウィミィたちが、セプタードに頼み込んだ)
でもそもそも、お前が字が書けるのはなんでだ。
お前もアンナ・リヴィアから習ったとしよう。だが字が書けるだけでは、これだけのことができるはずがない。

本当にお前、何者なんだよブレイリー・ザクセングルス。

というわけで、ブレイリーの出自は、こういうものになったんです。
再三再四でも言います。私は本当に安易に、1200年代のザクセングルスの設定を作ってしまった。
大概に設定変更だとは思いました。5/30の通り私自身が「そんなん聞いていない……」と呟くことになりました。
でも納得もしたんです。お前相当厳しく躾けられ、教育を施されてきた人間だったか、と。
そして件のカティスの教養、教師はお前だったのかと。

でもこの時はまだ、漠然としか考えていなかった。
ですが6/5に本当にふと、ふと気づいたんです。
どうして今まで気づかなかったのか不思議なくらい、当たり前のことに。

以前書きましたが七年前のプロットでは、本作は窓から逃げ出したロスマリンと合流したら、それで終わりだった。
後はセプタードがグリマルディ伯爵を倒し、フィデリオが黄門様のように印籠振りかざして場を収拾し、それで終わりだった。
ブレイリーはレーゲンスベルグへ、ロスマリンはアルベルティーヌへ帰り、その後プロポーズして結婚。
そういう予定だったんです。
でも待てよ。


ブレイリー、お前、ロスマリンと一緒にアルベルティーヌに行けばいいじゃん。
ていうかむしろ、なんでロスマリン一人で帰さにゃならんのだよ、一緒に行かない理由が判らん。


お前がアルベルティーヌに行けば(次回更新で起こること)が叶うじゃない!

いや、マジで泣きました。
次回更新箇所の展開を思いついた瞬間、呟いたように、この話これで絶対最後まで書けると思いました。
絶対頓挫しない。このシーンが書きたい、ここを書くためになら絶対頑張れる。
そう思った。

で、その前段階として、アルベルティーヌに着くよな。
いきなり登城はないよな、まずバルカロール侯爵邸に向かうよな。
当然両親待ってるよな、よし「お嬢さんを僕にください」だな。

そう思った瞬間。


リフランヌが、玄関ホールでブレイリーをひっぱたいた。



そしていきなりデレた。


作者の私が呆然とした。
ええと、その、私は「お嬢さんを僕にください」はエルフルトでやるつもりだったんですけど。
ちゃんとそのネタ、考えてたんですけど。
なぜ突然出てきたのリフランヌ。
いきなり何言い出すの。
なんでいきなりブレイリー婿として認めてんの。
世間様じゃそれ、デレるっていうんだよ

ただただ呆然としたんだけど、一通り考えて思った。
ああこれで、この物語は、決着がついた。
ちゃんとオチがついた。
これならば納得して最後まで書けるだろう、と。
それは物凄くほっとすることでした。

ただ、この予想外の展開をもって、ブレイリーの未来は大分変わってしまいました。
それが「バルカロールの婿」です。
当初の予定では勿論、ロスマリンはバルカロールと絶縁してレーゲンスベルグに嫁に来るはずだったんですが。
なんとブレイリーの方がバルカロールに気に入られてしまったので、図らずも傭兵団長と隠れ貴族の二足の草鞋です。
でもこれが七年前はまったく想定していなかった幸せな未来をもたらすことになります。
この話は本作のラストでできると思います。お楽しみにしていただければと思います。

というわけで、次回はいよいよクライマックスのクライマックス。
何が起こるかはここでは申しません。
ただ、このシーンを書くために、私は復帰後頑張ってきたのだと思っています。
そしてなぜ私がこのシーンを書きたかったのか、ここで何を叶えたかったのかが、皆様に伝わってほしいと切に願っています。
posted by Sae Shibazaki at 15:01| Comment(0) | 小説執筆
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