2022年05月17日

書き下ろし『二百年後の薔薇の果実』について

再録本『彼方へと送る一筋の光』のご購入、ありがとうございました。
今回の本は今までのものと違い、分冊によりページの余裕ができたため、書き下ろしを収録いたしました。
サイト上で見ることはできませんが、新作を書き上げましたので、恒例の余談というか釈明を。
最近はTwitterで呟くことが多くなりましたが、長くなりますのでこちらに記そうと思います。
既読前提で記しますので、ネタバレがお嫌な方はご注意ください。








さて、まずは一作目『二百年後の薔薇の果実』
大陸暦1215年のレインとジュリアですが、やはり『彼方へと送る一筋の光』の後日談です。
この作品は、これまで消化できなかった宿題のうち二つに触れています。

一つ目が『緑の本』についてです。
これは今回突然作られた設定ではなく、一連の番外編を書き始めた頃から設定されていたことで、ロスマリンが遺した本は、最初から『赤の禁書』だけではない予定でした。

実のところ『彼方へと送る一筋の光』がリアルタイムではなく、後の時代に振り返った回想であること。
おそらくこれがロスマリンが書いた文章であること。
それは序盤から暗示していたことなので、お気づきの方も多かったと思います。
なので、これが『赤の禁書』の一部分か、と思われた方もいたかもです。

でも『彼方から届く一筋の光』で『赤の禁書』を読んだジュリアは、初代が誰なのか判らず「カイルワーンではないのか」とレインに尋ねています。
つまり『赤の禁書』には、ブレイリーとロスマリンの物語は収録されていないんです。

まあ要するに。
『赤の禁書』に描かれているのが『それでも朝日は昇る』本編部分。
『蕚の書』に描かれているのが『彼方へと送る一筋の光』だった、ということです。

故にザクセングルスを象徴する色は緑です。
カティスは白、カイルは黒、アイラは赤、マリーシアは黄色で、再録本の装丁もそれに合わせました。
今回の再録本は泣く泣く分冊にしたため、上巻を薄赤にしましたが、下巻が緑なのはこういう理由です。
本作は再録本を刊行した後、時間をおかずサイトで公開しなければ、と思ってはいました。しかし、今回書き下ろしの余裕ができたので、何よりこれを説明する小話を置かねばならぬと思った次第です。

そしてもう一つの宿題は、カイルワーンの手紙です。

レインがオフェリアの二つ名『ジュリアーヌ』を知っている理由として、カイルワーンからロスマリンに伝えられ、それがレインの手に渡るような道具立てが必要でした。
であると同時に、オフェリアの手元に『赤の禁書』が渡るのならば、自分の気持ちを直で渡してほしいとカイルワーンは考えないだろうか、と思いました。
というわけで、カイルワーンからオフェリアへ宛てた手紙を登場させたわけなんですが。
本作に書いたように、ロスマリンを始めザクセングルスの人たちが、これの封を切るとは思えない。
(これ、ブレイリーの子孫があいつみたいに生真面目で誠実だった、というよりも、レイン以外の歴代総領にとって必要がなかったというか興味がなかった、というのが真相じゃないかなー、と。レイン以外の『禁書の守り手』たちって、お役目について「判った。俺はこの本と手紙を次の代の総領に渡して、あと家を潰さなきゃいいんだなオッケー」ぐらいにしか考えてなかったんじゃないかって)
ロスマリンが開けない以上、あの手紙の中身について触れる機会って、ジュリアの時代で別に掌編を書かない限り叶わなかったんですよ。
で、今回その機会が巡ってきたので、挑んでみたわけなんですが。

謝罪します。正直に白状します。
私、この手紙でカイルワーンが何をオフェリアに言おうと考えていたのか、完全に忘れた。
登場時に考えていたのかいなかったのかも、覚えていない……。

いや、もう、カイルワーンはオフェリアに何を伝えようとしたんだろうねえ昔の私。
教えてほしい。

仕方ないので、今の私が「カイルワーンが伝えたいこと」を考えた結果が本作です。
未来を全て知ってしまったカイルワーンの人生で、最後の最後に「判らない未来」がやってきた。
それはどんな思いだったのだろうかと。
不安ではあるだろう。心配なこともあるだろう。
でも、です。もしかしたら明るい未来もあるのかもしれない。
そうカイルが思えたのなら、それはささやかな救いになったと思うのです。

それにしても、レインとジュリアで掌編を書くと、どうしてもリア充爆発しろで終わるのは、もう因縁かなあと思います。
posted by Sae Shibazaki at 20:14| Comment(0) | 小説執筆
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。